物が一つ一つ壊れていく

2022年7月20日
水曜日
くもり

 午前中、御所のイオン。家人の買い物を車の中で待つ。その間、青空文庫で『邪宗門』を読む。
 その中で【ベリガン】なる単語が出てきた。調べてみるとペリカンのことらしい。

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https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/%E7%AC%AC28%E5%9B%9E-%E3%81%A8%E3%81%BE%E3%81%A9%E3%81%86%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%B3

pelicanという鳥はよく知られていると思う。ペリカン便という宅配便もあったし、万年筆にもある。斎藤茂吉の歌集『赤光』(1913年、東雲堂書店)を読んでいて、次の作品にであった。

ペリガンの嘴(くちはし)うすら赤くしてねむりけりかた/はらの水光(みづひかり)かも(冬来)

はっきりと「ペリガン」と印刷されている。これが初めてだったら、誤植と判断するだろう。しかし、筆者は以前に「ペリガン」にであったことがあり、これが初めてではなかった。北原白秋の『邪宗門』に収められている「蜜の室」という作品に「色盲(しきまう)の瞳(ひとみ)の女(をんな)うらまどひ、/病(や)めるペリガンいま遠き湿地(しめぢ)になげく。」という行りがある。作品末尾には「四十一年八月」とあり、これに従えば、明治41(1908)年の作品であることになる。一方、同じ『邪宗門』に収められている「曇日」という作品には、「いづこにか、またもきけかし。/餌(ゑ)に饑(う)ゑしベリガンのけうとき叫(さけび)、/山猫(やまねこ)のものさやぎ、なげく鶯(うぐひす)、」とあって、ここには「ベリガン」とある。初版だけでなく、再版(1911年)も改訂3版(1916年)も、「曇日」が「ベリガン」、「蜜の室」が「ペリガン」である。改訂3版の「本文」が基本的には大正10(1921)年にアルスから刊行された『白秋詩集』第2巻に受け継がれていく。そして、昭和5(1930)年にやはりアルスから刊行された『白秋全集』第1巻においては、白秋が作品に手入れをしたことが知られている。白秋は自身の作品が刊行される時にはさまざまなかたちで手入れをすることが多い。さてそこまでを視野に入れると、次のようになる。『近代語研究』(2017年)に収められている拙稿「「本文」の書き換え」では岩波版『白秋全集』に「ペリカン」とあると錯覚して記述しているので、ここで訂正しておきたい。

邪宗門』初版 同再版 同改訂三版 白秋詩集 白秋全集 岩波版白秋全集

曇日  ベリガン ベリガン ベリガン ペリガン ペリカン ベリガン

蜜の室 ペリガン ペリガン ペリガン ペリガン ペリガン ペリガン

上のことからすると、そもそも白秋は「ベリガン」「ペリガン」2語形を使っていたと思われる。現在一般的に使われている「ペリカン」はアルス版の『白秋全集』に至って初めてみられる。英語「pelican」の綴り、発音からすると、「ベリガン」や「ペリガン」は自然ではないように感じられるが、北原白秋斎藤茂吉も使っている「ペリガン」はたしかにあった語形だと考えたい。
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 帰宅して昼寝。
 テレビを見ようとしたら、リモコンが作動しない。電池を変えてみてもダメ。ネットで調べて代替品を注文する。1600円なり。

 物が一つ一つ壊れていく。物悲しい現実ではある。